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    小説 昨日の敵は今日の友 (2)
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       目指すは憎っき敵空母!
      可愛い部下達が無念の涙で海の藻屑になった。
      この恨みは敵空母に爆弾を命中させねば・・・

      阿部大尉は操縦桿を倒し血走った目で敵空母を睨み付けながら突入した!

      阿部大尉、中島少尉が乗る彗星の周りは敵艦の対空放火で真っ黒だ。

      彗星

      前後左右至近距離にこれでもか!というくらい黒い弾幕が炸裂している。
      加えて敵艦からの機関砲のシャワーだ。
      弾幕が炸裂する度、彗星の機体はビリビリ振動している。
      中島は敵戦闘機の攻撃にかろうじて逃れた他の2機が脳裏にかずめた。
      18機出撃した彗星のパイロットのうち、大半が初陣パイロットだ。
      うまく付いてきているだろうか?
      心配だったが後ろを振り返る余裕などない。
      阿部隊長の操縦技量を信じるしかない。

      出撃の前日、阿部大尉は空母準鷹の搭乗員控え室で艦爆隊員36人を集めて
      こう話した。

      「お前等の大半は初陣だ!
      訓練では標的に向かって爆弾も投下した。
      しかし明日は実戦だ。
      敵も我々の爆弾が1発でも命中すれば乗組員の数十人いや数百人が戦死するか
      下手すれば船が沈む。
      敵も必死だ!
      訓練では対空砲火などないが明日は目も開けられないほど激しいぞ!
      今まで俺達の先輩達が沢山敵艦に向かって突入・戦死した。
      1つの作戦で出撃したうちの大半いや下手すると全機未帰還もざらだ。
      何故だかわかるか?」

      中島そしてみんながシーンとして聞いていた。

      「大本営発表では○○作戦、敵大型空母4隻・戦艦2隻轟沈とか勇ましい戦果が
      いつも発表される。
      そして我が軍未帰還機10機・・・とかな。
      大ウソだ!
      殆どの作戦で敵艦にかすり傷も与えず未帰還機はその何倍もあるんだ!
      一人のパイロットを養成・一人前にするのに何年かかると思う?
      2年から3年だ。
      お前等数ヶ月の訓練じゃ前だったら使い物になりやしなかった。
      いいか!
      敵艦の対空放火は半端じゃなく激しい!
      それをどうやって回避するか?」

      みんなは真剣な顔をして聞き入っていた。
      誰一人、呼吸も止めたような息づかいすら聞こえないようだ。

      「今までも沢山のベテランパイロットが敵対空砲火に喰われ無念の涙で散っていった。
      海軍にとって至宝のような存在ばかりだ。
      爆弾や魚雷を持たせれば神業のように敵艦に命中させる技量のある連中ばかりだ。
      僅か1〜2年の間に殆どのベテランが戦死した。
      敵が物量にものを言わせてがむしゃらに撃っていると思っているか?
      俺はな・・・
      ここ数日考えたんだ。
      もしかして敵は我々の飛行機の速度を仮測定して俺達の飛行機が進む未来予測をして
      照準しているのでは。
      弾幕が外れれば飛行機の速度を微調整して計算し直し未来予測を出せばいい。
      そうすりゃ確実に俺達の飛行機には命中するな。
      ならばこっちも考えなくちゃいけない。
      爆撃も雷撃も一直線にひたすら突撃だ。
      相手の速度さえわかればこんなに堕としやすい標的はいない。
      敵に射撃訓練をさせているようなものだ。
      明日はこういう突入をするぞ!
      よ〜く聞け!」

      みんなは前のめりになり生唾を飲み込む音が聞こえた

      「いいか!
      俺達は敵艦を見つけたら70〜80度の角度で急降下する。
      地獄の底にまっさかまだ。
      急降下のスピードも600キロは軽く超える。
      700以上だ。
      お前等初陣はどんなに頭で冷静に保とうと思っても敵の対空砲火の凄さに恐怖のあまり
      少しでも早く爆弾を投下して離脱したい・・・
      人間として当たり前の心理状況かもしれん。
      つまりスロットル全開で突入する訳だ。
      速度も固定する訳だ。
      それじゃ敵にとっていい射撃訓練の的だ。
      明日は突入と同時にスロットルを調節しろ!
      命令だ!
      調節すれば速度も一定しない。
      敵の未来予測を外すんだ。
      怖い!と思ってスロットルを一定にしたら・・・
      お前等、魚の餌だぞ!
      わかったか!!!」

      はい!

      中島は聞いていてなるほど!と思った。
      確かに敵はそういうやり方で我々の飛行機の未来予測をしていたのかもしれない。
      しかし阿部隊長のような歴戦のパイロットなら心臓に毛が生えているかもしれない。
      だけど他のみんなが出来るだろうか?
      恐怖に1秒でも早く離脱したい・・・と。
      スピードを増減出来る余裕があるだろうか。


      高度を下げていくうちに敵艦隊の対空砲火は更に激しさを増してきた。
      敵艦隊の高角砲だけでも数百門。
      機関砲に至っては数千門だ。
      それが一斉に僅か3機の飛行機に集中するんだからシャワーどころの比ではない。

      中島は高度計を見た。

      隊長!
      高度1000を切りました。

      まだまだ・・・

      確実に命中させるには高度500以下で投下しなくてはいけない。
      いやもっと低高度で。
      肉を斬らせて骨を断つ!
      下手すれば阿部・中島機も爆弾投下前に海の藻屑だ。

      後ろで中島が900・・・
      800・・・と高度を知らせる。

      中島は恐怖で声が震えていた。
      隊長!早く投下して離脱しましょう!!
      声を出したくなる。
      隊長は怖くないのだろうか?
      いや同じ人間。
      怖くないはずがない。

      700・・・

      60と言いかけた時。

      グッ・・・ア!!!
      その声と同時に操縦席風防に赤い鮮血が飛び散った!

      隊長!!!

      戦の真っ最中じゃ〜
      気にするな!!!

      大声がかえってきた。
      しかし・・・

      敵艦の機関砲が阿部隊長の左肩から上腕に向かってこぶし大の肉をそぎ落とした。
      その痛みたるや。
      まるで真っ赤に焼けた棒を突っ込まれたような熱さ・痛み・・・
      阿部は歯を食いしばった。

      ・・の野郎!

      この痛みは何十倍にも返してやる。

      左腕は殆ど使い物にならなくなった。
      右腕だけで操縦桿を強く握りしめた。
      高度は500を切った。
      敵艦の発射する機関砲がまるで花火のよう・・・

      中島は400・・・と言った瞬間
      阿部は

      投下よ〜い

      テェ〜〜〜!

      爆弾投下レバーを強く引いた。
      その瞬間、彗星が抱えていた500キロ爆弾が敵空母に落ちていく。
      投下と同時に阿部は操縦桿を思いっきり引き急上昇!
      左腕が効かないのに凄い腕力だ。
      急上昇すると同時にもの凄いG!
      阿部も中島も内蔵が一気に口から吹き出るのでは・・・くらいだ。
      目も飛び出てきそうだ。

      阿部は中島に命中確認しろ!と伝えた。

      敵空母は必死の回避でかろうじて避けた

      アメリカ空母バンカーヒル

      ズドドド〜ン!

      惜しくも500キロ爆弾は敵空母艦尾付近に至近弾となった。

      ・・・
      艦尾に至近弾です。

      中島は悔しげに報告した。

      阿部は無言だった。
      今は離脱する間にも生かして帰すものか!とばかり敵艦からの対空放火が
      またまた激しさを増してきた。
      その間にも中島は後席からの7.7ミリ機銃で敵艦に向かって応戦していた。
      中島は離脱する瞬間、敵空母飛行甲板に数字が書いてあるのを見た。
      大きく17と白文字で書いてある。
      識別番号かな・・・
      そしてフッと思った。
      味方機は?
      周りを見回しても飛行機らしき姿は見えない。
      敵艦隊の海面を見ると大きな水紋が2つ・・・
      グッ・・・
      対空砲火にやられ爆弾を抱えたまま海面に突入。
      海の藻屑となってしまった。
      クソ〜〜
      18機中、生き残った彗星は阿部機のみ。
      34人の若人が海に散ってしまった。
      中島は目が熱くなった。

      阿部機は敵艦の対空放火を避けるため全速力でジクザグ飛行を繰り返しながら
      離脱した。
      だんだんと対空砲火が和らいできた。
      なんとか離脱できたようだ。
      その瞬間、阿部の肩に激痛が走った。
      ウッ・・・!
      左肩を見ると肩から腕にかけて真っ赤だ。
      かなりの出血だ。
      これでは味方機動部隊までの遠距離飛行は無理だ。
      途中で墜落してしまう。
      阿部が考えた敵艦対空砲火を避ける方法を伝授しなくては。

      中島!
      船まではとても無理だからグアム基地に緊急避難する。

      中島はその報告を聞いてふと思い出した。

      隊長!
      お怪我の様子は?
      空中にいる場合、操縦席に移動が出来ない。
      隊長の怪我具合が心配だ。

      かすり傷だ!
      大したことはない!!!
      阿部は激痛に耐えやせ我慢した。
      高度を2000に上げ針路を日本軍基地があるグアムに向け飛行した。
      距離にして1時間もあれば着く。
      少しの我慢だ・・・と。


      ヘイ!
      俺達のコースはどうやら空振りのようだったな。

      後席のマリオン・スミス中尉が口を尖らせて言った。

      操縦席のカール・ボインド中尉も

      あ〜
      他の僚機は無線でジャップの潜水艦撃沈!を何回も報告しやがって・・・
      憎ったらしいぜ!

      二人が乗る飛行機はSB2Cヘルダイバー艦爆。
      阿部機が乗るタイプと同じ飛行機だ。

      SB2Cヘルダイバー

      アメリカ海軍主力の艦爆。
      今回、機動部隊前方に配置してあるであろう日本軍潜水艦の掃討部隊だ。
      水上艦艇は潜水艦が脅威の存在。
      かたや潜水艦は対潜水艦飛行機が大の苦手。
      今回の日米の作戦、3日間だけで日本の潜水艦は8隻も撃沈された。

      あ〜あ〜
      俺達は手ぶらで帰投か。

      ボインド中尉は嘆いた。

      スミス中尉は

      ま〜
      戦果を上げた輩の話を聞きながらビールを御馳走になろうじゃないか。

      そう言いながら機体下に対潜爆弾60キロ2発を抱えながら2000メートルの
      高度を飛行・・・
      味方機動部隊に口笛を吹きながら帰投中だった。

      しばらく飛行していると・・・

      スミスが

      ヘイ!
      ボインド!!

      右70度 10000!


      ボインドも見ると敵味方不明機が1機・・・
      敵か味方か?
      まさか敵零戦?
      艦爆にとって戦闘機は苦手中の苦手だ。
      スミスが双眼鏡で直視しているとどうやら敵機。
      それも攻撃帰りの艦攻か艦爆のようだ。


      ボインド!
      近づいてみようぜ!

      ラジャ〜!


      阿部大尉は大量の出血で意識が飛びそうになること、しばしばだった。
      何くそ〜
      もう少しの辛抱だ。
      基地に帰投さえ出来れば手当も出来る。
      持ち前のど根性で気合いを入れ直した。

      グアムまであと30分ほど・・・
      中島が

      隊長!
      左70度 10000
      敵味方不明機!

      緊張が走った・・・

      阿部機の機体は敵戦闘機そして敵艦の激しい対空砲火により穴だらけ。
      飛んでいるのが不思議なくらい。
      運よく急所が外れ火を噴かなかった。

      敵戦闘機か?

      阿部は目を凝らした。
      単機だからもしかすると敵の偵察機か哨戒機かもしれん。
      中島も双眼鏡で凝視した。
      段々近づくにつれずんぐりした機体。

      隊長!
      敵機です!

      グラマンか!?

      敵戦闘機ならば左腕が完全に麻痺している状態。
      逃げ切れる可能性は低い。
      一難去ってまた一難か・・・
      そう考えながら少し経つと中島が

      敵機は艦爆!

      どうやら偵察か哨戒の帰りのようだ。
      お互い日米の艦爆同士。
      何事もなくすれ違うだけだろう。
      高度も同じ・・・
      お互いの距離が近づくにつれ

      隊長!
      近づいてきます!

      何?



      ボインド機が阿部機に近づいてきた。
      スミスも双眼鏡で見ている。
      機体の細部がよく見えるようになり

      ヘイ!
      ボインド!!!

      敵艦爆は穴だらけだぜ。
      青色吐息で飛行してるぜ!

      面白い!
      俺達が乗っているヘルダイバー様は戦闘機も顔負けの20ミリ固定銃があるんだ。
      瀕死相手だったら撃墜出来るぜ。

      スミスも
      艦爆が空中戦で敵艦爆を撃墜・・・なんて
      俺たちゃ鼻が高いぜ。
      やっちまおうぜ!


      阿部は不思議に思った。
      戦闘機ならいざ知らず同じ艦爆同士。
      近づいてきてどうするつもりか?
      アメリカ人のユーモア精神で手を振るつもりか?
      距離も1000を切った。
      段々近づいてきた。
      相手パイロットの顔も見えるようになってきた。
      まもなくすれ違う瞬間・・・

      ドドドドドドド・・・

      敵艦爆主翼から機銃が発射された。

      何〜!

      阿部は元ゼロ戦パイロット。
      昔のきねづかで反射的に操縦桿を倒し敵弾を避けた。
      ・・・の野郎!!
      俺様相手に喧嘩を売るとはいい度胸!
      思い知らせてやる!
      旋回し敵機の後部に回り込んだ。
      彗星は艦爆とはいえ運動性能はいい。
      昭和20年になると夜間戦闘機として使われたくらいだ。

      俺に喧嘩を売った事を後悔するな。
      そう言いながら近づき照準器を合わせた。


      スミス!
      敵機が旋回してきたぜ。
      まるで戦闘機のような動きだぞ。

      任せろ!
      俺が7.7ミリ機銃2門で蜂の巣にさせてやるぜ。

      ヘルダイバーは艦爆のくせに重武装だった。

      お互いの距離が縮んできた。
      阿部は彗星の固定銃は12.7ミリ2門。
      至近距離で撃てば相手に致命的な打撃を与えられる。
      敵機にぶつからんばかりに近づき照準器から敵機がはみ出すくらいに近づき
      射撃レバーを引いた。
      その前にスミスも射撃レバーをすでに引いていた。
      お互い相打ちのような状況だ。

      ドドドドド・・・・

      ダダダダダ・・・

      世にも稀な艦爆同士の空中戦。

      スミスの射撃は正確だった。
      阿部機のエンジンに集中して射撃・命中した。
      阿部も戦闘機上がり。
      負けちゃいられない。
      至近距離で射撃した12.7ミリが敵艦爆燃料タンクに集中。
      ボインド機が白煙を吹き出した。
      阿部機もエンジンに致命的な損傷をした。


      ボインド!
      相手は本当に艦爆か!?
      畜生!
      白煙が吹き出てしまったぜ。


      ガッデム!


      中島も興奮した。
      隊長が元零戦乗りなのは知っていたが鮮やかな旋回そして回り込みで今更ながら
      頼もしく思った。

      中島!
      エンジンをやられた!

      えっ?

      阿部は周囲を見回した。
      グアムまではまだ遠い。
      しかしよく見ると小島が1つ。
      距離にして10000メートルもない。
      このまま自爆して若い中島を道連れにするより不時着して島に逃げ込むのが一番!と思い
      機首を島の方向に向けた。
      敵機も白煙を吹きながら降下していく。

      中島!
      海面に不時着する。
      不時着したらすぐに海面に飛び込み島へ泳ぎ着くぞ。

      はい!

      少しでも島の近くまで・・・
      マリアナ諸島海域はサメが多いので有名だ。
      それも人食いサメ。
      阿部は
      俺は助からんだろうな・・・
      覚悟を決めた。
      この腕と出血じゃ、すぐに地獄の使者は匂いを嗅ぎつけてくる。

      段々高度を下げ海面すれすれの辺りから着水した。

      ザバ〜〜ン!
      ショックはあったものの何とか無事着水。

      中島!
      早く飛び込め!

      はい
      隊長も早く!

      中島は後部座席から這い出て主翼の上に乗り操縦席の阿部大尉を見て愕然となった。
      左半身が血で真っ赤!
      こんな状況で敵空母に爆撃そして戦闘機も顔負けの空中戦・・・
      隊長の技量にただただ驚いた。

      隊長!!!

      中島は涙声で叫んだ。

      早く!

      いや俺はいい。
      お前だけ飛び込み早く島へたどり着け!

      何を言ってんですか!

      強引に隊長を引っ張り出し海に飛び込んだ。
      阿部は怪我と大量の出血で顔面蒼白だった。

      早く島にたどり着き手当しなくては・・・

      中島は泳ぎは達者だった。
      隊長を抱えながら懸命に島の方向に泳いだ。

      中島!
      俺はいいからお前だけでも助かれ!

      生きるも死ぬのも一緒じゃないですか!!!

      懸命に泳いだ。
      幸いにも海流が島の方向に向いているせいかペースが速い。
      しかし阿部の息づかいが荒い。
      かなり危険な状況だ。

      阿部大尉!
      しっかり!!!

      泳いでいくうちに40〜50メートル先に三角形のものが見えた。

      ん???

      中島は何だ?と思いながらよく見るとサメの背びれ。

      隊長!

      サメです!
      絶叫した・・・

      阿部はかすかな声で

      やっぱり来たか・・・

      中島!
      俺から離れろ。

      嫌です!

      命令だ。
      上官の命令に従えないのか?

      ・・・・

      俺から離れ全速力で泳ぎ切れ。
      そして生き延びいい飛行兵になれよ。

      そう言うと強引に中島の手を解き両手を挙げ海中にスルスル・・・と沈んでいった。

      隊長〜〜〜!

      中島は大声を上げた。

      隊長の死を無駄にしてはいけない。
      後ろ髪を引かれながら懸命に泳いだ・・・
      こんな死に方があるか!
      畜生〜
      涙を流しながら必死に島に向かった。

        続く
        
                    まさやん




      posted by: まさやん&花 | 小説 昨日の敵は今日の友 | 12:56 | comments(0) | trackbacks(0) | - |
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